2017年01月06日(金)
のん [雑感]
今日はこれ。
新聞の一面広告(1月3日)。
沖縄の桜坂劇場で真樹と見た「この世界の片隅に」はよかった。
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◎毎日新聞11月15日夕刊・ニッポンへの発言
キーワード 女優のんと「この世界の片隅に」=中森明夫
能年玲奈に会った! いや、現在は「のん」に改名している。3年前、「あまちゃん」で大ブレークしたが、所属事務所との確執が報じられ、休業状態に陥っていた。先ごろ、独立して改名、活動を再開したのだ。
アニメ映画「この世界の片隅に」の主演で声優として抜擢(ばってき)された。9月半ば、マスコミ試写の初回は大雨の朝の渋谷だったが、ずぶ濡(ぬ)れになって駆けつけた。映画の冒頭、コトリンゴの唄(うた)う「悲しくてやりきれない」が流れ、青い空に「のん」とクレジットされた瞬間、思わずウルッときた。ああ、能年玲奈がスクリーンに帰ってきた!
映画は素晴らしかった。こうの史代の漫画原作を片渕須直監督がアニメ化した。昭和19年、広島から呉に嫁いだ若い女性の物語だ。戦時下の日常を丹念に描く。戦争の悲惨さを声高に訴える作品ではない。今、生きる人々のように暮らしがある。それゆえ終盤の戦災の場面はより痛切だ。
こうの史代には広島の原爆被害を独自の手法で描く傑作「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」がある。だが、「この世界の片隅に」では呉を描いたことに着目したい(こうのの母の故郷だという)。「黒い雨」や「はだしのゲン」等、広島の原爆を描いた作品は数ある。“HIROSHIMA”は人類史上初の原爆投下の街として世界中の人々が知っている。しかし、呉はどうか? 広島の隣に軍港・呉があって、兵器が造られ、戦争に出撃していった。そうして、その街にも普通の人々が暮らし、女も子供も空襲に遭って死んだ。こうのが描いた呉や原爆で失われた戦前の広島の街を、片渕監督は執念の取材でアニメによって詳細に再現した。この映画は世界14カ国での公開が決定している。この歴史的傑作によって世界は初めて“KURE”を知るだろう。
『キネマ旬報』誌の対談でのんに会った。この映画の彼女は素晴らしい! のんさんの声がぴったりで、もうそれ以外は考えられないと伝えた。2年前、映画「ホットロード」公開時に対話したが、主人公の少女が能年さんに憑依(ひょうい)したみたいだと言うと「えっ、憑依?」と彼女の顔が急に曇る。「それじゃダメなんです」と俯(うつむ)いた。憑依ではなく技術によって演じたいという。能年玲奈は実にクレバーな女優だ。「あの頃は憑依と言われることに神経質になっていて、それが顔に出たんだと思います」と今、のんは言う。
今回の作品の主人公すずは絵を描くのが好きなこと等、のんと重なる。戦争の苦境を生き抜き、大切なものを失う女の子の物語だ。彼女は芸能活動停止の苦境に耐えた。能年玲奈という大切な名前さえ失った。のんの声には喪失の響きがある。「演じた」のではない、彼女は主人公を「生きた」のだ。そう言うと、また憑依の時みたいに怒られるかな? 「いえ、今はもう大人になりました。えっ?と思っても、顔には出しません」と、のんは笑った。
なるほど「あまちゃん」の能年玲奈はもういない。そこには意志的な大人の女優がいた。のんさんがこの作品に出合ったのは運命のように思えます、と伝えると「一生に一度、出合えるかどうかの作品です」としっかりとうなずいた。とても美しい顔をしていた。
戦争によって少女すずの描く絵は途絶える。戦後生まれの漫画家こうの史代はそれを描き継ぐ。映画監督・片渕須直の強い想(おも)いがアニメ化へと向かう。小さな資本だ。でも、この映画が見たい! 日本中の観客たちが支援金を寄せて、遂(つい)にすずは動き出す。そうして最後に女優のんの声が魂を吹き込む。この映画は成り立ちそのものが一つの奇跡のような劇だ。多くの人々の祈りがこめられている。すずよ動け! のん=能年玲奈よ甦(よみがえ)れ! そんな祈りが絶対に通じない訳がない。私もまた祈りをこめて、この文章を書いている。あなたに向けて。どうか、この映画を観(み)てください!!
私たちの存在はちっぽけだ。戦争にも巨大資本にも強権大統領にも敵(かな)わない。でも……。片隅に生きる者の輝き、祈りがきっと何かを変えると信じる。「この世界の片隅に」は、「この片隅」から「世界」に向けて大きく広がってゆくだろう。(コラムニスト)=毎月第3火曜掲載
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Posted by パオパオ トラックバック ( 0 ) コメント ( 2 )
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