2011年11月22日(火)
大阪の教育基本条例案 [時事]
◎京都新聞11月22日 「視点2011」より
裸で放り出される若者層
「民意」が教員評価 ネガティブな感情を動員 中島岳志
橋下徹氏が率いる「大阪維新の会」が提出した「教育基本条例案」が議論になっている。その内容は多岐にわたるが、「教育への競争原理の導入」と「不適格教師の免職」が骨子となっている。
高校が“ネット”に
条例案では、大阪府立高校の学区制廃止とともに、3年連続定員割れとなった学校は統廃合の対象とすることが明記されている。
この条項は、「学力格差」の拡大が深刻な教育現場を直撃する。今年の府立高校入試で大幅な定員割れが起きた学校は、学力的な課題を抱えた生徒が多く通う高校に集中しているからだ。
しかし、高校はさまざまなかたちで、若者の重要なセーフテイーネットの役割を担っている。先日、大阪府立西成高校を取材したが、この学校には、家に自分の学習机がない生徒が半数以上おり、家庭環境の問題を抱える生徒が多いという。
近年、「貧困の連鎖」が問題化する中、西成高校では「反貧困学習」を行っている。これは自らがおかれた状況や社会システムを客体化し、課題解決の方法を模索する試みで、生徒が主体的に解決に取組む重要なきっかけとなっている。また「応募前職場見学」を進めることで仕事のミスマッチを防ぎ、職の安定を図っている。さらに、児童相談所の職員や生活保護のケースワーカーと連携し、各家庭の課題解決を共同して行っている。
このような地道な努力が、多くの高校で行われている。「入学試験の倍率」という指標だけでは計ることのできない社会的価値や包摂機能が、各高校には存在するのだ。
狭まる選択の幅
報道によると、来春の大阪府内の高校入試では当初、公私立高合わせた募集定員が府内の受験予定者数より約2千人も少なくなった。その後、定員は上積みされることになったが、統廃合を恐れた高校が一斉に事前の定員削減を予定したのが原因だという。条例の影響で公立高校の募集が減るような事態になれば、低学力で貧困家庭出身の学生の行き場が大幅に失われることになる。
大阪では私立高校の無償化政策が実施されたが、用具などにかかる経費や電車代などの問題で、遠くの私立学校似通うことが困難な学生も多い。また、貧困家庭の学生はアルバイトによって家計を支えているケースも少なくない。経費と時間のかかる遠方の学校への進学は難しく、必然的に自転車で通うことのできる地元高校を選択するケースが多くなるのだ。
条例案は、学力が高く経済的に豊かな家庭の学生にとっては選択の幅を広げるが、学力が低く貧困に苦しむ家庭の学生にとっては、選択の幅を狭める結果となる。高校が担ってきたセーフティーネットに大きな穴があき、弱い立場の若年層、裸のまま激烈な労働市場に放り出されてしまう。
さらに問題なのは、「教員の免職」に関する規定である。教育基本条例案では、校長による教員の相対評価が義務付けられている。2年連続最低ランクの評価を受けた教員は研修を受け、評価されなければ免職となる。相対評価は絶対評価と異なり、必ず一定数の最低ランクを付けなければならない。条例案ではその割合が5%と定められているため、100人の教員のうち毎年必ず5人は最低ランクの評価を受ける。
多様な価値観必要
条例案では、保護者らによる学校協議会が具体的な「教員評価」も行う。この評価を校長は重視しなければならず、「民意」が教員人事に反映されるシステムが構築されるという。しかし、これでは特定の保護者たちの声が「民意」とされ、特定の教員へのバッシングが起こる可能性が高い。
もちろん明らかな不適格教員は教育現場から退くべきである。しかし、一方で「教員評価」は極めて多様な価値観を反映する必要がある。多くの学生に人気のない教師でも、特定の学生にとってはかけがえのない理解者であったりするからだ。
最大の問題は、住民「社会的参加の動機付け」に、人間のネガティブな感情が動員される点だ。学校教育に対する行きすぎたクレームや加虐を発動させる条例は、攻撃的熱狂を煽りすい。
不安や不満が堆積する現代社会で、われわれの「民意」のあり方が問われている。 (北海道大学准教授)
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ああ、たいへんやった。
この記事がネットのどっかに載ってたら、コピー一発ですぐここに載せられたんやけど・・・。全部手打ちですわ。時間かかりましたわー。
でも、大阪市民でもない私にできることは、なるほどと思う記事をここに紹介することくらい。中島岳志さんは大変分かりやすく説明してくださっている。
それにしても、投票日5日前にこの記事を掲載する新聞社もすごい。この記事をしっかり読み取れる大阪市民は、決してあの人には投票しないでしょう。
私の大好きな前長岡京市議・小原明大さんは、すごい分析をしておられる。日本共産党の所属でありながら、「橋下独裁批判では選挙は勝てない」とツイッターでつぶやいておられた。
私もそう思う。橋下さんに投票する人は、その政策を見て判断されているのではない。タレントとしてファンになっておられるだけだと思う。それなら、「独裁者」と批判することはそのファンクラブの結束力を高めてしまうだけの効果しかない。
小原明大さんが指摘されているように、この4年近く大阪府がどう変っていったのか、具体的な数字を出して批判するしかない。「社会的弱者・少数者を切り捨て」ているあの人のやり口を明らかにして、粘り強く説明していくしかない。
一度ファンになってしまった人は、ちょっとやそっとのことでは裏切らない。その証拠に、各新聞社の世論調査では橋下氏一歩リード。「教育基本条例案」に対しても反対より賛成のほうが多いらしい。
小泉郵政改革にだまされた人は、また橋下「維新」にだまされる。残念だが、短期間でそのファン心理を覆すのは無理だと思う。今からでもできることは、今まで投票に行ってなかった「だれがなっても同じ」派に、「だれがなっても同じということはない」と分かってもらうこと。
橋下さんは何がやりたいのだろう。私にはよく分からない。いろいろなコンプレックスがあって、虚勢を張っておられるのだろうとは思う。
サングラスをかけてチンピラ風でテレビの人気物になったのに、知事選に立候補する時に普通のメガネに変更。
あんなに激しい口調が売り物だったのに、知事退任の記者会見ではニコニコ笑顔に変更。私はそれを見て背筋がぞっとした。
「私の主張が理解できない人は私に投票しないでください。そんなバカどもの一票がなくても、私は悠々当選してみせますよ」くらい言われるのかと思っていたのに・・・。
とにかく、こんなにコロコロ変る人を私は信用できません。自分の賞味期限切れが近いことを悟られ、あせっておられるのでしょうか。
もし、まだ投票に行くかどうかを決めていない大阪市民の方がおられましたら、どうかもう一度中島岳志さんの記事を読んでください。お願いします。
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【追加】 興味深い記事を見つけたので追加します。
◎京都新聞11月23日朝刊
教育条例案 かすむ議論
27日投開票の大阪ダブル選で、橋下徹前知事(42)率いる「大阪維新の会」が争点に掲げた「教育基本条例案」に関し、橋下氏の言及が少なくなっている。選挙戦終盤の街頭演説などでは、若い世代に投票に行くように促す発言が目立ち、条例案の議論はかすみがちだ。
条例案は教育行政への政治関与を明記。2年連続で人事評価が最低の教員を分限免職の対象とするほか、3年連続定員割れした府立高の統廃合を盛り込み、教育現場から反発が出ていた。
これに対し橋下氏は10月の教育委員との意見交換で「府民の大きな声を感じるために選挙をやる」と強調。維新の会のマニフェスト(公約集)の柱に位置付けていた。
選挙戦では「駄目な先生は退場してもらい、優秀な先生の給料を上げる」などと訴えたものの、具体的な説明は乏しい。維新の会の議員は「条例案は独裁批判と結び付けられると厄介で、誤解される可能性もある」と解説。ただ知事選に立候補した同会幹事長の松井一郎氏(47)は「説明する時間がないだけだ。避けていることは絶対にない」と話している。
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教育現場に不満のある人は、まず教員採用試験を受けて教師になってもらいたい。橋下徹氏にもそれを勧める。
私はわずか12年の小学校教諭の経験しかないが、今まで先生に一度もほめてもらえなかった子を励ますことができたという自信はある。(その反面、それまでよい子ちゃん扱いだった子らがないがしろにされたかもしれないが。)
「えっ、こんな僕がほめてもらっていいんですか」みたいなうれしそうな顔を、あの橋下さんにも見てもらいたいと思う。あんな顔に出あったら、人生観変わりますよ。
そして、ぜひ自ら発案した「教育基本条例」によって分限免職処分になってもらいたい。そのとき、橋下氏は自分をどう弁護するのだろう。また、分限免職になった先生から弁護の依頼を受ければ、どう対処されるのだろう。
自分で種をまいておいて、選挙に不利だと判断したらコソコソと隠してしまうなんて、あなたらしくない。
Posted by パオパオ トラックバック ( 0 ) コメント ( 9 )
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コメント
肥下先生、コメントありがとうございます。
京都からでもできることってなんでしょう。何かお手伝いしたいのに何をしていいか分からないという人が多いと思います。それは私も同じです。
具体的にできそうなことがありましたら、どんどん言ってくださいね。私では無理ということでも、必ず助けてくれる仲間がいます。そういう人を一人ずつでも増やして行きたいです。
どうかご無理をされませんように。疲れて動けなくなるということになりませんように。たまにはほっこりすることも考えて、楽しい運動にしていきましょう。
訂正ありがとうございました。大阪で起こることはすぐに京都でも起こることです。とにかくこの条例案は廃案にしなければなりません。どうか力を貸してください。
肥下先生、ご指摘ありがとうございます。
まちがいがないか何べんも見直したつもりでしたが、大事なところをまちがってしまいました。失礼しました。
11月26日京都新聞の「ニッポンの現場」も見せていただきました。「格差の連鎖を断つ」反貧困学習は、やっと4年目に入ったところだったのですね。そういう地道な取り組みをしている学校をなくそうとする「教育基本条例」は、絶対に通してはなりません。
私にもできることがありましたら、ぜひ声をかけてください。
京都新聞11月22日「視点2011」で紹介されている西成高校で勤務しています。記事中の「半貧困学習」は「反貧困学習」の間違いです。訂正願います。
ありがとうございました。事後承諾になってしまってすみません。ご厚意に感謝申し上げます。この条例の危険性を訴え、何としてでも彼らの野望を打ち砕かなければなりません。ぜひ【堺からのアピール・教育基本条例案を撤回せよ】のブログを皆様方に大いに広げて頂きますようお願い致します。
http://blog.livedoor.jp/woodgate1313-sakaiappeal/
堺アピール事務局さん、お返事遅くなって申し訳ありません。大阪・長居陸上競技場のマスターズ陸上でで5000mを走って、ついさっき京都の自宅に帰ってきました。
私のブログがお役に立つのでしたら、どうぞお使いください。ただし、誤字脱字があるかも知れません。
小原明大・前長岡京市議のホームページもぜひ見てください。「おっはー」で検索したら出てきます。
そちらのブログもぼちぼち見せてもらいます。
「あきらめず、粘り強く!」という気持ちでがんばってください。
私は京都市民なので直接お役には立てませんが、京都から応援しています。
申し訳ありません。無断で転載させていただきました。お許しが得られない場合は、すぐ削除いたします。
先ほどのコメントで、ブログのURLを入れ忘れました。よろしければ覗いてみて下さり、ご判断材料となさって下さい。
中島岳志さんの記事、私もブログに転載できないかと昨日から悩んでおりました。大変厚かましいですがコピーさせていただいてよろしいでしょうか?出処は明記させていただきます。よろしくご検討下さい。